ドーパミンVS脳幹

ドーパミンVS脳幹

現代人の脳においてのドーパミンの働きについて

ドーパミンVS脳幹

シロハ便り第111号 2018年4月

ドーパミンVS脳幹

 

 体内時計って聞いたことあると思いますが、それには親時計と子時計があるらしく、親は脳です。それとは別に、子時計はそれぞれの内臓についているらしく、それらの体内時計をある決まった周期でリセットして合わせなおしをする必要があるということです。

 

 それが規則正しい生活の大切さというわけで、とくに朝、決まった時間に起きることと、決まった時間に朝食を摂ることが、とても大切だということがわかっています。

 

 脳が寝る時間だよと、親時計が言っているにもかかわらず、遊びや仕事で無理をさせると、内臓の子時計が狂い、細胞を傷めるそうです。気を付けましょうね。

 

ドーパミンVS脳幹

 

 ドーパミンとは中枢神経系に存在する神経伝達物質で、快楽物質として知られているのではないかと思います。ドーパミンは、とくに前頭葉に分布するものが報酬系などに関与し、意欲、動機、学習などに重要な役割を担っていると言われています。

 

 つまり、報酬系とは、ヒト・動物の脳において、欲求が満たされたとき、あるいは満たされることが分かったときに活性化し、その個体に快の感覚を与える神経系のこと(ウィキペディアより)らしいです。

 

 例えば、仕事で、これを成し遂げたら出世間違いなしとか、大きなプロジェクトを成功に導けるとか、大きな報酬を得られるとか、とてもやりがいを感じている場合やそれを成功させた時の快感を味わった時、そしてまたその快感や達成感を知っていて何度でも味わうために努力し成し遂げた時など、ドーパミンがどんどん分泌されて、疲れたとか眠いとかを感じなくなるくらい、やる気満々でがんばれてしまうということです。
 これは、一般的には立派なことだと思います。それだけの能力があり、努力をし、やりがいのある仕事をしているというのは、とても立派で幸せなことに違いありません。

 

 けれども、この状態が長期間にわたって続くと、かなり危険であることも確かです。ドーパミンやアドレナリンやエンドルフィンなどは強力な脳内麻薬のようなものです。ドーパミンは報酬系ですが、アドレナリンは身の危険やストレスのかかった時に身体に喝を入れ活性化し戦う状態にするような働きがあり、エンドルフィンは楽しいこと全般、快楽をひたすら求める物質で強い鎮痛作用もあります。

 

 これらの神経伝達物質には、それぞれ役割があり、適切に使われるように脳幹によってコントロールされていて、そのバランスが過剰に崩れるような現象は自然の中での動物世界では稀にしか起こりません。

 

 しかし、脳幹のコントロールの枠を超え、脳幹が起こす生理現象をも制御してしまうほど、つまり眠いのに眠気を感じないくらい頑張れるとか、お腹が空いたのも忘れるほど熱中するなどの状態をドーパミンが作り出してしまうのは、人間くらいのものです。もっと言えば、歴史上、人類の中でもホモサピエンスという我々の始祖にしか見られない現象だと言っていいと思います。

 

 人類の原型が進化によって誕生したのが今から250万年前ですが、我々の始祖となるホモサピエンスが認知革命を起こし社会性を確立し集団で何かを成し遂げるようになったのは、たったの7万年前のことです。

 

 それから農業革命が起こったのが今から1万2000年前です。つまり現代人の歴史とは、まだ、ものすごく短いものであるにもかかわらず、ものすごい勢いで社会や環境や生態系などを激変させているわけです。

 

 人類種としてホモエレクトスという種は氷河期を生き延び、約200万年も生き延びましたが、我々ホモサピエンスとしてはまだ数万年しか生存しておらず、現代人としての我々人類は、どうでしょう、このままいけば後1000年生き延びるかどうかも怪しいものです。

 

 何が言いたいかというと、ここまで集団として、つまり国家や組織や民族として数億人や数千万人規模で何かができるようになり、人類の起こした認知革命から、このドーパミンの制御が生理的な脳幹の働きを超えてしまったことで、大きな恩恵や繁栄と共に悲しい宿命も負ってしまったのではないかということです。

 

 狩猟採集の時代は、農耕社会に比べると、ずっと気が遠くなるほど期間が長いです。その時代なら、獲物を捕った、やったー、食べるものが手に入った!、で終わる話であり、ドーパミンはそれだけで済んだ話です。

 

 これが、一人では起こし得ない、ものすごい仕事が出来るようになってしまった認知革命以降の人類では、特に産業革命以降の人類においては、偉業を成し遂げたり社会的な地位を得たり、ものすごい権力を得たりなどのとてつもない達成感によって、ドーパミンのコントロールが失われるほどの仕事が可能になってしまったのです。

 

 その結果、過剰なドーパミンが神経系を支配し、疲れていることを感じさせなくなり、その隠れ疲労が累積疲労として脳幹へ蓄積されるようになりました。これが過労死の最大の要因です。もちろん、偉業を成し遂げるような人は少数かもしれませんが、現代社会において、仕事の中で無理やりにでも仕事をしなければならない状況はいくらでもあり、そこに意味や意義を付け加えることにより、やりがいを半強制的に起こさせ、猛烈に働き続けている人がどれほどいることか。

 

 その中で、ドーパミンの分泌機能に異常をきたせば、統合失調症やうつ病になり、仕事のストレスが多くなればなるほど分泌されるアドレナリンが強制的に心臓に負荷をかけ続けるので心臓に疾患を起こし、酷使した身体が痛みを出せばストレスと相まってそこから抜け出すためにエンドルフィンに頼るようになり、パチンコやギャンブル、酒やタバコへ依存するようになります。

 

 だいたい、病気の8割は心因性の疾患だと言われています。しかし、だからといってストレスをどうにかするということは、どだい無理な話で、人類が社会性を獲得した時からの宿命のようなものです。

 

 一体、人類が繁栄させてきた社会って何なんでしょうね。ドーパミンの狂った結果の偉大な偉業によって戦争が起きたり、多くの生態系を壊し生物を絶滅させ、地球環境を破壊し、ストレスに苛まれ、身体を壊し、この人類が先史の人類の先輩のように200万年も生き延びられるとは、到底思えない現実の中で、あなたは何をそんなにがんばっているのでしょうか? 身体を壊してまで。

 

おすすめ

 

 色々と考えさせられる本ですし、種としての自分たちのことを見るのに別の視点を与えてくれると思います。現代の色々な問題が、バカらしく思えてきます。